中小企業M&A
中小企業M&Aとは
中小企業M&Aとは、後継者不在等を契機として会社や事業の存続・発展のためにM&Aの手法により第三者へ承継することをいいます。
2025年までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は約245万人、うち約半数の約127万人が後継者未定と見込まれています。後継者不在の中小企業は、将来の見通しが立っていないにもかかわらず、何らの対策も講じない場合には、廃業せざるを得ません。この場合には、従業員の雇用が失われたり、取引の断絶によりサプライチェーンに支障が生じたりするなど、多くの関係者の混乱を招き、ひいては地域経済にも悪影響を生じさせるおそれがあります。このような事態を避けるため、官民上げて中小企業M&Aの支援体制整備のための様々な施策が講じられています。
中小企業M&Aの目的・メリット
東京商工リサーチが中小企業に対し行った「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」によると、買い手がM&Aを検討したきっかけや目的は、「売上・市場シェアの拡大」が最も高く、次いで「新事業展開・異業種への参入」となっています。買い手は他社の経営資源を活用して企業規模拡大や事業多角化を目指している様子がうかがえます。また「人材の獲得」や「技術・ノウハウの獲得」なども上位となっています。
一方、売り手がM&Aを検討したきっかけや目的は、「従業員の雇用の維持」や「後継者不在」といった事業承継に関連した目的の割合が高い一方、「事業の成長・発展」も48.3%と高く、売り手の約半数の企業は、成長のためにM&Aを検討していることがわかります。
売上・市場シェアの拡大 | 73.7% |
---|---|
新事業展開・異業種への参入 | 49.1% |
人材の獲得 | 40.3% |
技術・ノウハウの獲得 | 33.1% |
コスト低減・合理化 | 18.6% |
取引先や同業者の救済 | 14.7% |
設備・土地等の獲得 | 12.8% |
ブランドの獲得 | 5.6% |
サプライチェーンの維持 | 4.8% |
その他 | 1.0% |
(n=1,341)
従業員の雇用の維持 | 53.0% |
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事業の成長・発展 | 48.3% |
後継者不在 | 47.9% |
事業や株式売却による利益確保 | 22.0% |
事業の再生 | 18.6% |
ノンコア事業の売却による事業改革 | 4.7% |
その他 | 2.7% |
(n=549)
- 資料
- (株)東京商工リサーチ
「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」- 複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。
売り手からみたM&Aの目的・メリット
前述の調査結果を踏まえると、売り手は「事業承継」「事業成長」「事業改革」を目的としてM&Aを実施しており、売り手が期待しているメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 事業の成長と発展
M&Aにより、売り手と買い手が、双方の強み・弱みを補完し、売上向上やコスト削減等のシナジー(相乗効果)を発揮することで、事業の成長と発展が期待できます。
- 後継者問題の解決
売り手の経営陣が高齢化や後継者問題に直面している場合、買い手の経営陣が後継者として就任することにより、企業の存続を図ることができます。なお、引継ぎのタイミングとしては、株式譲渡と同時のケースのほか、株式譲渡後、数年間の引継ぎ期間を経て代表者を交代するケースの2パターンがあります。
- 従業員の雇用継続
売り手は、M&Aにより会社や事業を維持・発展させることにより、従業員の雇用を継続させることができます。
- 個人保証(経営者保証)の解除
多くの中小企業では経営者が個人保証を行い、金融機関から融資を受けているケースが多く見られます。M&Aでは買い手による融資の肩代わり、もしくは保証そのものを引き受ける形で個人保証(経営者保証)の解除が可能になります。
- 創業者利益の確保
未上場株式は換金が難しい一方、相続時に相続税が課税されるため、多くの未上場企業において相続税の資金準備が課題になっています。株式譲渡という手法でM&Aを行うことにより、株式を保有するオーナーが譲渡対価として現金化することができます。最近では、50代で株式譲渡を行い、その後、新たな事業を始める、余裕あるセカンドライフを送るという事例も増えています。
- 事業の再生
連続赤字や債務超過などの状況下において、M&Aを活用し、スポンサー企業の下で事業の再建を目指します。
- ノンコア事業売却による事業改革
本業に経営資源を集中させるため、ノンコア事業(本業ではない事業)や赤字事業を売却する事例も見受けられます。
以上のように売り手からみたM&Aの目的やメリットは多岐にわたっており、M&Aは売り手にとって企業の存続や発展の上では重要な手段の1つです。
買い手からみたM&Aの目的・メリット
基本的に買い手はシナジー(相乗効果)を期待してM&Aを実施します。具体的には以下のようなM&Aの目的・メリットが挙げられます。
- 売上シナジー
販売チャネル、営業ノウハウ、ブランド力や知名度、開発力、シェア向上による価格支配力の獲得を目指します。
- コストシナジー
仕入れコスト、販売コスト、物流コスト、製造コスト等の削減を目指します。
- 人材の確保
M&Aにより、買い手は売り手から人材を確保することができます。売り手が持つ人材を自社に取り入れることにより、自社の人材開発や人材確保につながります。
- 技術・ノウハウの獲得
他社が独自に保有する技術やノウハウを取得するために、M&Aが行われることもあります。これにより、製品開発のスピードを加速させ、新たな価値提供を可能にすることができます。
- リスク分散・財務力強化
M&Aにより多角化を行うことで外部環境の急速な変化による経営リスクを分散する効果が期待できます。
- 経営の効率化
競合他社や同業者同士が1つになることで、重複する部門や機能を統合し、経営を効率化することが可能になります。これにより、経営資源を最適に配分させることができるため、企業の競争力強化につながります。
以上のように買い手からみたM&Aの目的やメリットも非常に多く、今以上に企業を発展させる上では欠かせないものと言えるでしょう。 - 中小企業の事業承継の選択肢
中小企業の事業承継の選択肢としては次の4つが挙げられます。
- 親族承継
- 社内承継
- M&Aによる第三者承継
- IPO(新規上場)
中小オーナー企業の事業承継の選択肢として、M&A(第三者への承継)は一般的になりつつあります。親族承継では該当者がいない、社内承継ではNo2はいるもののオーナー社長と年齢が近く、かつ営業・開発・技術などすべてを担ってきたオーナー社長の後を継ぐのは難しい、IPOできる企業は限定的(帝国データバンクによると、2022年日本国内IPO企業数は91社、但しTOKYO PRO Marketを除く)というケースが多いためです。
よって、これまで「消去法」で最後の選択肢として考えられがちであったM&Aですが、成功させるためには数年単位の準備期間が必要であるため、親族承継、社内承継、M&Aという順に検討するのではなく3つ同時に、もしくは「M&Aこそ一番初めに検討すべき」と言うことができます。